■シナリオ概要

【シナリオ名】
夢喰いサナトリウム

【PL向け情報】
推奨人数:1人(+KPC)
推奨技能:命に関わるほどのものはなし
所要時間:推定3~4時間

【探索者HO】
PCHO:あなたは叶わない、けれど切に叶って欲しかった望みがある。
KPCHO:あなたはPCが困っている時に助けたいと思える人物だ。

【あらすじ】
 とかく幸せな夢を見て目を覚ました。
 夢の内容ははっきりとは思い出せない。それどころか、目を覚ましたその場所にも覚えがない。
 花が咲き乱れる肌寒く薄暗い廃屋の一室。あなたはぽつんと、立ち尽くしていたのだ。

*事前注意*
「探索者の行動によって」ですが、シナリオ中で探索者の行動を強制的に決定したり、発狂内容を固定したり等若干の制限が発生するシナリオです。こういった要素が平気な方のみプレイしたり読み進めることをお勧めします。

以下、シナリオ本文となります。PL予定の方は閲覧をお控えください。


■シナリオ背景

【簡単なシナリオ背景】
 最近疲れていた(かもしれない)PC!うっかり近隣の山に湧いて出ていたグラーキ(基本p214)の催眠にひっかかっちゃった!

【シナリオ背景】
 もうただただ上記の通りなのですがPCが近隣の山に湧いて出ていたグラーキの夢引きにひっかかってシナリオが始まります(※グラーキの能力はだいぶ都合よく解釈しています)。
 PCは開始時点でグラーキが繰り返している夢引きチャレンジの影響でSANを削られ、幻覚やうっすらと記憶障害を引き起こしている状態です。そのため自身の負傷を正常に認識できず、廃病院内の死体や血痕、それから沼地に行った際に見てしまうグラーキも同様に、惨状を想起させるものが全て花に見えてしまっています。描写も視覚情報が主なのですが、痛覚や嗅覚にも影響は出ているんじゃないかな……。
 幻視している花の種類は特にシナリオからは指定しませんが、花言葉から例を挙げるとピンクのカスミソウ(切なる願い)、ヘリオトロープ(夢中)や金盞花(絶望)やクロッカス(切望)などがあるのでこの辺かもしれません。キャラシに合わせてみたり、KP裁量でお好きな花を咲かせてください。

【登場NPC】
 上記だけ見るとほぼソロシに思われそうなのですが大体合ってます。あんまりNPCの出番はないです。

・グラーキ
 PCの住居の近隣の山の沼地に湧いて出た神話生物です。本シナリオでは人間に夢を見せていい感じに操り自分の近くまで来させてから、刺し殺してゾンビに変えて自分の従者にするタイプの神話生物として解釈しています。SAN減少量の調整の都合上今回は綺麗な姿(?)でしか登場していません。
 ウキウキで出現してみた沼地の近くにちょうど人間たちがいる病院があったので夢引きを行い、結果的に全員発狂させ大惨事にしてから「人間の精神って意外と脆いんだ……はわわ……」と思っていたかもしれないし、おかげで病院付近も丸ごと立ち入り禁止区域になってしまいしょんぼりしているかもしれません。

・幽霊
 PCが廃病院に入った元凶犯です。もともとPCより前にグラーキの催眠にひっかかった哀れな友人を探しに廃病院まで来たところその友人に殺されてしまうことになった人です。
 死体が病院に残っており、魂もふらふらと友人を心配して病院に留まり続けていたのですが、次なる犠牲者(PC)が通りがかったのを見てヤバ!?!!?と憑りつき病院に連れてきたのち、イシスの封印(基本p251)などの呪文を雑多に使用してグラーキ退散のヒントを置きつつPCのMPを勝手に消費して気絶させています。気絶しとったら時間稼ぎもできるやろ!みたいな。
 そののち第二の犠牲者候補(KPC)も来たのでこちらにはPC救出のためのAFとヒントを与えています。あまりに大忙し。

・グラーキの従者
 PCより前にグラーキの催眠にひっかかりものの見事に従者にされてしまった哀れな元人間です。上記の幽霊NPCの友人です。
 グラーキの従者にされ発狂した状態で廃病院にて自分の友人と再会するも首を絞めて殺してしまい、そのあたりで一時的に発狂が解けて悲嘆に暮れながら談話室に安置し、うっすら理性と発狂を抱え続けたまま沼地付近を周回しつつ定期的に友人の死体の周りに花を添え続けています。グラーキ退散のコストの肩代わりをしてくれる存在のためPOWがそこそこあるものとしますがお好きな値でどうぞ。
 この従者NPCと幽霊NPCの容姿はざっくりシナリオにて定めてしまっていますがいくらでも変えてもらってかまいません。適宜関係性や容姿など変更してPLPCの心のみぞおちをぶん殴りそうな境遇にしてもいいです。
(2024.1.26追記)
 また、なんとなくこの二人に関しては元探索者のつもりで書いていました。その方が説明が早そうなので……!

・KPC
 最近様子のおかしいPCを見て、心配のせいかPCがいなくなる夢をしばしば見ています。会う約束をしていた日にPCが来ず、PCからの「○○沼」という地名のメッセージ(実際はグラーキがPCを催眠にかけて送った罠)だけを頼りに慌てて奔走しなんとか付近まで来たところ心霊現象に遭い、AFとPCの居場所のヒントを渡されてんやわんやしながらPCの元まで駆けつけています。一応PCよりは催眠の影響を受けていないため視界は正常かもしれませんがKP裁量でその辺は決めてもらってかまいません。SAN減少の反映などお好みでどうぞ。設定もそんなもんなのでRPはKP各位にお任せします。
 AFは後述しますがPCのSAN0ロストを避ける保険みたいなものなので具体的な見た目などは決めていません。お洒落なペンダントとか…お好きにしてください……(?)


■シナリオ本編

【導入】
■タイトルコール
 仮に、果てのない夢を現と呼ぶのであれば、君が今見ているそれはきっともう現なのかもしれない。
 涸れきった私の声ではどれだけ呼んでも君に朝は来ない。月も見えぬ暗い夜は君に優しく纏わりついて未だ離れない。

 ──だから、どうか願うのは。

-Call of Cthulhu-
「夢喰いサナトリウム」

◇PL開示情報◇
 シナリオ開始時点でPCの現在SAN値を20減少し、不定領域を更新してください。
 これによる発狂内容はシナリオで固定していますが、現時点では開示しないものとします。
☆この処理で現在SANが10以下になる場合は-10に変更してもかまいませんし、そもそもの現在SAN値が1桁の場合は省いてもいいです。適宜調整してあげてください。

■導入
 近頃、あなたはどうも調子が悪い。
 例えば簡単なことでミスをしてしまったり、訳もなく焦燥感に駆られたり、悲しかったことを思い出して落ち込んだり、身体が怠く暇ができると眠くなってしまうとか。いつもより不調が顕著に出ており、そんな状態なので周囲の人間からは少し心配されているかもしれない。
 とはいえ、不調の原因に心当たりがあるかと問われるとあまり思いつかないのだ。不調自体はおそらくここ2週間程度続いているが、それ以前の記憶を遡っても差し当たって大きな問題があったわけではない。ただ気がつけばそうして調子が狂い始め、今日もぼんやりとしていたわけだ。

 普段であれば一応そろそろ寝る時間だが、そういえば風呂にも入っていなかったことを思い出す。そもそも今日は何をしていただろうか。どうもここ数日はぼんやりと過ごしている間に気づけばこうして寝る時間になっているのだ。
 ここで、アイデアを振ってください。

▼失敗の場合
 少し頭を巡らせる。最近は記憶もやけに曖昧で、今日の記憶も例に漏れず本当にぼんやりとしている。眠気も相まっているのだろうか。
 とはいえ明日は休日で、昼過ぎにKPCと予定があることは思い出せる。早く寝たほうが良いだろう。

▼成功の場合
 寝る前になって少しだけ冴えた頭は今日の記憶を取り戻そうとした。が、なぜか殆どの記憶が抜け落ちているような不安に駆られる。
 朝は確かに目を覚まして支度をして、おそらくいつも通りに過ごした筈だ。筈なのだが、どうもそれが雲を掴むような心地で実感が湧かない。何かが足りない。それだけをして過ごしていたわけではないような気がするのだが、では何をしていたのか……と考えても思い出せないのだ。この記憶の違和感は初めてではなく、ここ数日何度か繰り返している気がする。SANC(0/1)
 明日は休日だが、KPCと昼過ぎに会う予定がある。心配をかけるまいと黙っているか、素直に相談して改善策を二人で考えるかはあなたの自由だが、とかく明日彼と会うのならば早く寝るのが賢明だろう。

 明日の支度をして、あなたはそっと床に就いた。

【目覚め】
 酷く暖かくて優しい夢を見ていた。それだけはぼんやりと記憶に残っている。
 しかしそんな夢とは一転して、あなたが認識した現実はどうやら不自然なほどに暗く冷たいものだった。黴臭く、窓からの月明かり以外の光源も見当たらない何処かの廃墟の一室で突っ立ったまま、あなたは目を覚ましたのである。SANC(0/1)

▼調べられるもの
自分、室内、窓の外

◇PL開示情報◇
 今回、シナリオ進行において生還までの必要情報が得られる探索箇所は提示していますが、それ以外にPLからの指摘により追加で開示できる探索箇所及び情報が存在しています。遊びたい場合は適宜つつき回してください。

▽自分
 目立った外傷などは見当たらないものの、身体はどうも疲弊していて空腹感もある。全く動けないというほどではないが、通常と比べ長時間の運動や激しい運動をする場合の持久力には間違いなく支障が出ている状態だろうと思える程度だ。
 服装は普段着で普段持ち歩いている荷物もそのまま持っているため、出かけた途中か帰宅中にここに立ち寄ったような様子だ。しかし、あなたの記憶は昨夜眠ったところから途絶えてしまっており、いつこの服装に着替えて荷物を持って、どうやってこの場所に辿り着いているのか皆目見当はつかない。
→アイデアなど
 何か違和感を感じて、あなたは自分の手首を見た。
 手首から花が咲いている。咄嗟に触れてみるのであればその箇所に痛みが伴うだろう。身体から花が生えている、のだろうか……。SANC(1/1d2)

▽スマートフォン(PLからの言及でのみ開示)
 日付、時間はあなたが眠ってから次の日の夜になっていた。電池はさほど消耗していないが、電波は圏外のため外部と連絡をするのであれば移動の必要があるだろう。
 メッセージにいくつか通知が残っている。約束をしていた時間以降から数時間前にかけてKPCから心配のメッセージが複数件届いているのだが、その合間に送った覚えのないメッセージを1件だけあなたからも送信していた。どこかの沼の名前だけの簡潔なメッセージだが、あなたはその沼の名前にも全く聞き覚えはない。SANC(0/1)
☆グラーキの催眠により無意識で送っていたものです。従者はいくら増えても困らないのかもしれない。

▽室内
 ぼんやりとした月明かりやスマホのライトなどを駆使して室内を眺めるのであれば、あちこち汚れ古びているものの漠然と診察室のような印象を受けるかもしれない。埃を被ったベッドや机などあまり物が撤去されておらず、医学書の類も棚に収まったままだ。
 窓は閉じているが扉は開きっぱなしになっており、今いる室内と同じくらいぼろぼろな廊下が見えている。
 しかし、それらを差し置いて特徴的なのは、室内、廊下に至るまであちらこちらに花が咲いている点だ。足の踏み場もないというほどではないが、このあちこち崩れかけた建物を突き破るなりして自生しているのだろうか。
→博物学or生物学:花
 見かけも奇妙だが、このような気候、場所では通常育つことのない花のはずだ。
→目星orアイデア:花
 壁にも点々と花は咲いているが、基本的には床に這うように咲き乱れている。

▽窓の外
 窓の外の様子を伺う。
 月明かり以外に街灯などの光源はなく、どこか山奥など辺境に位置する建物なのだろうか、周辺は木々に囲まれている。
 窓に鍵はかかっていないが、建物の経年劣化で窓枠が歪んでいるらしく安全に開くかは怪しいかもしれない。
→知識/2orアイデア/2orオカルト
 そういえば、あなたの住む街から少し山奥へ向かった場所に奇妙な立入禁止区域があるのを聞いたことがある。何か違法な実験をしていた研究所があるだとか、人喰い沼があるだとか、眉唾物のような噂が多くその真偽もはっきりとしないが、もしかするとその付近に来ているのだろうか。

【1階】
 目が覚めた部屋から廊下に出て、少し歩けばロビーに出る。出入り口は開きっぱなしで、相変わらず花もあちらこちらに密集して咲いている。
 目が覚めた部屋が診察室だと感じたように、やはりざっと見て回った印象ではこの建物自体が医療施設の類に思えるだろう。あなた以外の人気は全くない。
 階段を登らずに、まず1階を歩き回るのであれば塵が積もる中誰かが歩き回ったであろう靴跡を発見する。靴跡の大きさは自分のものと同じように見え、状況的にも自分が歩いたのだろうと推測できる。
→目星or地図を探す
 出入り口付近や上へ向かう階段には案内図が残っていた。名前に覚えは全くないが、どうやらこの建物は3階建ての病院だったらしい。
 1階は受付や診察室、手術室、調剤室など細々とした院内施設の類があり、2〜3階は主に病室。2階には少し広めの図書室、3階には談話室、それから屋上にも簡易な散歩スペースがあったようだ。
→目星/2or追跡
 床をよく見れば、あなた以外の靴跡を見つける。この建物内をしばしば歩いているのだろうか。
☆従者NPCが歩いた靴跡なので他の階で見つけてもかまいませんし、気をつけて見ているのであれば他の階でも見つかります。

→目星orアイデア(密集している花に対してPLから言及があった場合のみ)
 密集している花の付近には、衣類やスリッパなど、誰かの持ち物らしきものが落ちていることが多い。
→→アイデア
 あなたは一つの仮説を思いつく。この密集した花。これはもしかすると、人が花になっているのではないか?
 背筋がぞわりと冷えた気がした。ふとあなたは自分の手首を見やる。花だ。花が咲いている。
 自分もいずれ、花になるのではないだろうか。SANC(1/1d2+1)
☆ミスリードです。ま、発狂してるからね。

▽出入り口
 出入り口に近づいたあたりで少しの目眩を覚える。
 そういえば、ここに来るまでにもひどい目眩を覚えたような。目的は思い出せないが、山道をぼんやりと歩いていたはずだ。その途中で立っていられないような目眩が起こり、ふらふらと目についた建物に入ってきた……ような気がする。
 出入り口のガラス戸から見えるのは澄んだ夜空と生い茂る木々。見るからに危険な野生動物などの気配や痕跡などは見当たらなさそうだ。
☆建物内部を探索せずに外に出ようとした場合、若干ロスト率が上がるため幽霊NPCから1回だけ心霊現象でふんわりと止めてください。以下に描写と処理の例だけ書いておきますが、優しいKPとNPCなら1回だけふんわりと……とかでなくめちゃくちゃ止めてもかまいません(?)。

 ジリリリリ、と電話の音が鳴り始める。
 建物内の……すぐ近く。おそらく受付と思われるスペースからだ。この建物に電気が通っているとはあまり思えないが、電話が鳴っている。鳴り続けている。

 受付スペースに向かえば、古ぼけた黒電話が鳴り続けていた。音は確かにそこから発生しているのだが、線はどう見ても千切れている。SANC(0/1)

 受話器を、取る。
 向こうから誰かの囁く声が聞こえた。
「ごめんね、外に出たかったかな?でもね、もう少しだけここにいてごらん」
「──その手首の花の正体、知りたいでしょ?」
 答える間も無くその声は途切れ、ツー、ツーと古ぼけた電子音が流れる。
 受話器を取ったその手首に咲いている花が、ふわりと揺れた。

【2階】
 階段を登れば2階に辿り着く。3階までの階段はまだ上に続いている。あなたのものらしき靴跡はここへは立ち寄らず、そのまま3階へ登ったらしい。
 静まり返ったフロアをざっと歩き回っても1階と似たような状態で、さして目立つものはない。特徴的なのは少し広めの図書室くらいのものだろう。
→アイデア
 こうして1階と2階の状態を見ていると、残っているものがあまりにも多い。人だけが大急ぎで引き払ったのち、建物まるごとが放置されたような状態だ。

■図書室
 少し広めの図書室だ。どの棚も本が詰まっているほか、机の上に何冊か本が置きっぱなしになっている。見回したところ児童書や漫画、エッセイなど本のジャンルはてんでバラバラで統一性がない。埃を被ったそれらは手に取って開かずともわかるほどには草臥れて劣化しており、まともな明かりもないこの場所では子ども向けの絵本を読むことも難しいだろう。

▼調べられるもの
児童書、絵本

▽児童書のあらすじ
 主人公の少年は小学校のクラスメイトと馴染むことができず、家でも兄姉に意地悪をされ、少し肩身が狭い日々を過ごしている。そんなある日、クラスに転入生の女の子がやってくる。
 主人公は転入生と友人になったものの、彼女はなぜか時々主人公とまったく違うものを見ているような、不思議な言動をしていて……。
→アイデアor知識など
 あなたはこの物語が映画になっていたこと、それから大まかなストーリーも把握している。
 転入生の少女は実の母親からDVを受けた過去があり、心に病を抱えていた。彼女は本来自らの視界に入るはずの怪我や血の痕などが見えず、痛覚も鈍くなっていたのだ。その後展開としては主人公やクラスメイト、それから彼女の実の父親などの働きかけにより彼女はだんだんと自分の視界、痛覚を取り戻していき、主人公もまた兄姉との関係の改善、クラスメイトとも良好な関係を築いて物語が終わるといったものだ。

▽絵本
 沼のような水辺から怪物が顔を覗かせているのが描かれた、古びた絵本だ。おどろおどろしい装丁なところから察するに、子供向けのホラー絵本なのだろう。
→オカルトなど
 あなたはこの絵本と作者に覚えがある。
 絵本の内容はどうやら作者の実体験、というよりは夢で見た怪物をモデルとして書かれた物語なのだが、この絵本を発表した数日後に作者が失踪し、後に発見された際には心神喪失状態になってしまっていたということでオカルトファンの間では様々な考察もされている有名な作品だ。

【3階】
■2〜3階
 階段の途中で薄汚れたカバンが落ちていた。どこにでもありそうなデザインで、薄汚れたと言っても他の建物内で見かけた物品の類と比べればまだ使える状態に見える。

 カバンの中にあるのは電池が切れているらしいスマートフォン、ラッピングされた新品の腕時計、賞味期限が切れかけのバランスフード、なんだか中身が大変なことになっているペットボトル飲料×2、メモ帳、財布、小さめサイズの消毒液やガーゼなどの簡易な手当道具だ。あまり劣化は免れていないが、この建物の中で見かけた範囲では一番新しそうな状態だろう。

▼調べられるもの
スマートフォン、メモ帳、腕時計
 その他は使用したければできますがペットボトル飲料に関しては2本とも飲まないほうが無難な状態です。

▽スマートフォン
 電池切れらしく起動はしない。おそらくモバイルバッテリーを安易に使用すると発火しかねないような状態だが、どうやらカバー部分に何かが挟まっていた。
 引っ張り出せば二人組が仲良く笑顔で写っている小さめの写真が出てくる。顔立ちが似ているわけではないため、友人同士か何かなのだろう。片方は大ぶりのピアス、もう片方はカバンに入っているものと色違いの腕時計をつけている。

▽メモ帳
 日付などは書いておらず、買い物メモから電話番号などほとんど雑記のように色んなことが綴られている。が、書き込みが残っている最後のページから数ページはどうも深刻な内容になっていた。
 要約すると持ち主の友人が行方不明になったらしく、あちこちを探ったところ現在立ち入り禁止区域となっている少し近場の山奥の廃病院へ向かったのではないか?と仮説を立てたようだ。
 友人は行方不明になる前から何度か不思議な場所へ行く夢を見ていたと話しており、聞いた限りのその場所の光景はどうやら昔山奥にあった病院のものと一致していた。
 しかし、なぜそこ周辺が立ち入り禁止区域となっているのか。一応名目上は土砂崩れが起こったとされているのだが、聞き込み調査などを行った結果そこへ調査に行った人間も殆どが数日後に行方をくらませているのだと。土砂崩れ以外、もしくはそれ以上の何かがあるのではないかと持ち主は推測していたようだが、その辺りで書き込みは途切れてしまっている。とはいえおそらく、あなたがいる場所がその廃病院なのだろう。

▽腕時計
 綺麗なラッピングがされている腕時計だ。贈り物だろうか。
→メモ帳を読んでいた場合アイデア
 メモ帳に、腕時計について言及されていた箇所があることを思い出す。贈り物に色違いのものを購入と、友人が行方不明になった件の記載の少し前にメモ書きがされていたはずだ。

■3階
 階段を登っていれば3階に着く。まだ上へと続いており、おそらくこのまま行けば屋上に出るのだろう。あなたのものらしき靴跡は3階の談話室に立ち寄ってから屋上へ向かっているように見える。
 不思議なことに、廊下など全体的に1階2階より少しだけ小綺麗にされている印象を受ける。というのも、1階や2階は物があちこちに落ちていたのだが3階に来るとあまり床に落ちている物が見受けられない。埃は積もり花も点々と咲いているが、下階よりもはるかに少ないようだ。
→追跡or目星など
 3階にあったものを下階にいくつか引きずって移動したような痕跡がある。また、それ以外にも廊下を歩きやすいように壁際にものが寄せられているのではないかと思い当たる。

■談話室
 この部屋には一部、敷き詰められるようにして花が積もっていた。並んでいたであろう机がずらされて壁際に寄せられていたり、ある程度埃が払われたらしい床などを見ると、ここだけはあなたよりも少し前に誰かが訪れてあちこちに手を加えたような様子に思える。

▽花
 よく見ると、敷き詰められた花と別に床から自生している花がある。床から自生している花を中心にして何処かから摘んで集めたであろう花が配置されているのだ。
 どうもこの付近は鼻が曲がりそうなほどに匂いが強い。
→アイデアor聞き耳:花
 花とは、こんな香りだっただろうか?
→博物学or生物学:花
 咲いている、また敷き詰められている花の種類には覚えがあるが、ここまで強い香りを発する花はなかったはずだ。それどころか、発している香りはそもそも「花の香りですらない」。具体的な判別はできないが、腐敗臭に近いのではないだろうか。SANC(0/1)

【幻覚解除】
 屋上手前で一時的に幻覚が解ける処理にしていますが、″建物内の最終探索箇所の手前″で幻覚が解けるという基準さえ漠然と満たしていれば(探索者の行動次第なので)、幻覚が解ける場所は変わってもかまいません。
 また、屋上にて夢の内容を正確に思い出す描写を入れていますが、こちらも同様に″建物内の最終探索箇所″で思い出すようになっているだけなので場所自体は変わってもかまいません。
 一時的、と書きましたがこの幻覚解除は建物内の探索が終わるまでのもので、外に出ればまたグラーキの影響によりじわじわと復活します。

■3階〜屋上
 屋上までの階段を登りきるあたりで、積もった埃のせいか疲弊のせいかはわからないが、あなたはふと足を滑らせてしまう。幸い尻餅をつく前に手摺を掴んで事なきを得るが、そのまま滑り落ちていれば派手な怪我をしたことだろう。
 ふと痛みが走ったので、手摺を掴んでいた手を見やれば手首に花がふわりと揺れている。いや、通常人体から花など咲くはずもない。であればこれは?
 瞬きをする。花の咲いていたその箇所に赤い筋が見える。切り傷、だろうか?そうだ、確かここに来る道中で切ってしまったのだ。ぼんやりと霞んでいた記憶に少しの光が差して、それが同時に視界の″正しい景色″を呼び覚ました。

 老朽化しているだけではなかったのだ。
 じわりじわりと、あなたの見ていた世界は様相を変える。赤黒い斑が点々と残る床、腐臭。あなたの見えていなかった建物内の惨憺たる有様がようやく形を成していく。
 あなたの手首や露出した素肌の花が咲いていた場所には小さな切り傷があった。いや、そう見えていただけで、初めから花など咲いていなかったのだ。傷に触れれば痛むのは当然だろう。
 あなたは変わりゆく視界に寒気を催したかもしれない。SANC(1/1d3+1)

◇PL開示情報◇
 ここでPCの幻覚の発狂は一時的に解除されます。建物内の探索中は持続するものとします。

▼幻覚解除後に改めて調べられるもの
談話室、建物内全体
 時間や行動に厳密な制限があるシナリオではないため、上記を調べる前に屋上を先に調べることも可能です。もちろん、何も調べずに病院の外に出てもかまいません。

▽談話室
 改めて談話室へと入る。部屋の真ん中、花が積もっていたそこには死体があった。
 処理もされず腐敗し始めた死体の周りに沢山の花を敷き詰めていたようだ。改めて見ると、一部の花は腐敗の巻き添えになっている。
 手首に先程見つけたものと色違いの腕時計があるところを見るに、おそらく2階にあったカバンの持ち主なのかもしれない。
→目星or医学など
 死体の首元をよく見ると、顔面はにわかに鬱血した痕跡があり、喉元から見て両側面にはおそらく爪痕であろう三日月型の傷が残っている。いわゆる扼痕だ。手で首を絞められたのだろう。

▽建物内全体
 3階は下階に比べ物が少ない。それだけではない。死体の数も少ないのだ。
 建物全体を改めて見て回れば、死屍累々という言葉がよく似合った。物も人もずっとこの建物に取り残されていたらしく、腐り落ち風化した白骨自体が散見された。建物全体に嫌な匂いはこびりつくように漂っているが、3階談話室の死体が一番新しく、一番嫌な匂いを漂わせていたらしい。
 花が点々と咲いていたように見えていたのは薄汚れた血痕や砕けた骨。花が密集して咲いていたように見えていたのは一目でそれと分かる死体。実に分かりやすく目が誤魔化されていたため、細かく全てを確認せずとも記憶を辿ればおおよその見当がつくだろう。
 ただ、それだけの数の死体がある異常さにも気がついてしまうが。SANC(1/1d3)
→アイデア(メモ帳及び談話室の死体を確認していた場合のみ)
 メモ帳の人物……おそらく談話室の死体となっている人。その人が探していた″友人″というのは何処に行ってしまったのだろうか。ざっくりと病院内を探した限りでは、大ぶりのピアスをつけたあの写真の人物らしき死体は見つかっていない。
→アイデア(屋上の紙切れを見ていた場合のみ)
 沼地にいる怪物とやらが″悪さをする″と書かれていたのは、この異様な死体の数と関係があるのかもしれない。

■屋上
 階段を登りきれば、薄く開いた屋上への扉からちょうど少しの風が吹き込んでくる。

 扉の向こうにもやはり人の姿もなく、ただ煌々と月明かりが差しているだけの寂しい空間だった。
 フェンスが一部大きく破損していたり、手入れもされていない木が植っていたり、雑草だらけの花壇や古ぼけたベンチ。すっかり鬱蒼としているが、元々は患者の散歩スペースだったのだろう。

▼調べられる箇所
フェンスの向こうの景色、破損したフェンス、散歩スペース

▽フェンスの向こうの景色
 フェンスの向こうを見下ろせば、今いる建物から少し離れた場所に月を反射して輝く水場が見える。それ以外は殆ど森になっているが、水場と反対側方面は街の明かりがぼんやりと見えている。下っていけば街に降りるのだろう。

 水場。水。そうだ、喉がからからに渇いている。脚が痛むのは脱水症状のせいもあるのかもしれない。
 ぐらぐらと、痛む頭がまた目眩を起こして。

 ──最後に見た夢を、思い出した。

 満ち足りた夢だったのだ。
 苦しくなるほど愛おしい過去の追憶かもしれない。喉から手が出るほど欲した甘い理想かもしれない。冷たい夜風に撫でられ、頼りなく震えるその手には掴めぬ泡沫の恋のような夢。

 頭が重い。喉が渇く。脚は疲弊を胃は空腹を訴え、何もかも満ち足りない身体が軋んで悲鳴をあげている。

▽破損したフェンス
 金属フェンスの一部分が大きく破損している。
 よく見てみるとそもそもフェンス自体が全体的に劣化してひどく錆びてしまっており、おそらく些細な衝撃でも簡単に壊せてしまうのだろうと推測できる。

▽散歩スペース
→幸運orアイデアなど
 すっかり鬱蒼としてしまった散歩スペースを歩いている途中、ふと吸い寄せられるようにベンチに向かってしまう。
 確かここに座った気がする。座って何を見ていただろうか、ああ、目の前の花壇だ。よく見ればそこに何かが落ちていた。
 小さな重石に挟まって紙切れが一枚。びっしりと文字が書かれているが、その字と階段途中で見かけたメモ帳の字の癖が似ていると気が付けるだろう。
→→アイデア(談話室の死体を確認していた場合のみ)
 おそらく談話室の死体がメモ帳とこの紙切れを残した人物として、紙切れの文面は一体いつ書いたものなのだろうか。紙自体はさておき、書かれた字はさほど薄汚れていないように思える。
 そこでふと思い出す。見覚えがある。あなたは確かこれを書いたのだ。しかし文面に全く覚えはなく、筆跡は全くあなたのものと違う。
☆逆の順序で、この紙切れを見た後に死体を確認した場合も同じくアイデアで上記の情報を出してかまいません。

▽紙切れ
 「沼地の怪物の対処法について」と題されている。
 現在いる建物(病院)から少し離れた沼地にグラーキという名前の怪物がおり、夜間に街の人間を何人か催眠にかけ悪さをしている可能性があるらしい。書き手の推測として、これを読む人間は大抵心当たりがあるのではないか、とご丁寧に付け加えられている。
 続けてそれを追い払うための呪文が記されているが、呪文を使用するのにあたっての精神的な労力は一人で補うのが難しいと説明も加えられている。
☆これに書かれている沼地についてですが、スマートフォンを確認していた場合PCが意識がない間にKPCへメッセージで送った沼の名前と一致します。

◇PL開示情報◇
暗黒の呪い(基本p250)
コスト:1d6の正気度ポイントと任意のPOW
シナリオ上、この呪文により失うPOWは永久喪失とします。
☆この呪文、ここで直ちに使用してシナリオ終了としてもいいのですが今回その処理に関して記載していないのと、たぶんKPとPCが大変かなと思うので適宜ふんわりと止めてあげてください。

【外の探索】
 建物の外に出てみる。
 肌寒く真っ暗だが、木々も多いおかげか建物内と比べると非常に空気が澄んでいる。周辺にはこの建物以外に目立った建造物がないようで、本来舗装されていたであろう道もすっかり荒れ果てている。あなたは何か乗り物を駆使してここに来たわけではないようだ。

■建物内の探索を済ませていた場合※幻覚が解除されている場合
 PLに「どこに向かいますか?」と確認をとってください。「街へ降りる」ないしそれに準ずる答えが返ってきた場合と、「どこに行けるか」等の確認や「沼地」と答えた場合で描写および処理が変わります。

▼街へ降りる
 街へ降りようと歩き始めた。
 疲弊のせいなのだろうか、どこまでも暗い森を進むのが酷く不安だった。足は依然としてひどく鈍い。
「ねぇ、どこに行くの?」
 突然、声が聞こえた。これもまやかしかと思えたかもしれないが、確かに聞こえてしまった。
「君がいくのはこっちだよ」
 掠れた声で、あなたにそう声をかけてきたのは見知らぬ人間だった。
☆ここからは「▼街へ降りる以外」の幸運成功時の「皮膚は白く肌がボロボロ~」以降と同じ描写と処理になりますが、勿体ないなと思う場合(?)目星とアイデアにはプラスの補正を与えてもかまいません。

▼街へ降りる以外
 今あなたが向かえる行き先と言えば、暗い山道を降りて街への道を探すか、あるいはあてもなく彷徨うか、沼地か、といったところだろうか。
 しかし、外に出て暫くすれば奇妙な感覚に襲われる。暗い森の奥、沼地の方から呼ばれている、と。
 声が聞こえてくるだとか、決してそんな明確な感覚ではない。ただ、足が自然とそちらに向かってしまうのだ。
 迷いなく獣道へと踏み出した足に、理性は赤信号を出していたかもしれない。けれども不思議と恐怖はないのだ。先ほど見て来た病院の惨状の原因はきっと″それ″だというのに、ぼんやりと足が動いてしまう。

 獣道と言って差し支えのないその道を進む最中、時々に病院で見てしまったような白骨が転がっているのを見かける。腐臭は道を進むほど強くなっている気がした。
 ここで幸運を振ってください。

▽幸運(成功)
 唐突に、あなたの意識が少し醒める。
 今なら引き返せるのではないだろうか。
☆ここで引き返そうとしない場合は以下の幸運失敗と同じ描写、処理としてください。

 来た道を戻ろうと、あなたはぐるりと踵を返す。
 その目と鼻の先に人が佇んでいた。
 皮膚は白く髪が少しボサボサで服もボロボロ。この山奥で随分と暗い中を彷徨っていたような風体の痩せた人だ。耳元で揺れる大ぶりのピアスだけが少しの個性を残していたが、その人は顔色も変えず何も言わずにあなたを見ており口を開く様子はない。ただ、どうも、あなたの行く道を塞いでいるようだ。
→目星
 あなたはその人を冷静に観察できた。肩口から蜘蛛の巣模様に似た奇妙な赤い痣が首筋あたりまで広がっている。また、露出している部分の肌の痣、手首には手当されずに残ったらしい引っ掻き傷の痕もあり、おそらく誰かと乱闘をしたのだろうか?と思える。右脚、太腿の辺りは夥しい出血をしたであろう痕跡があり、傷がそのままであるとすれば本来は何かを支えにして歩かなければいけないほどだ。
→アイデア(写真を見ていた場合のみ)
 大ぶりのピアスに見覚えがある。写真とは少し容姿が変わってしまっているが、おそらく写っていた人物だろう。
☆肩口の痣に関してはグラーキの従者の特徴となります。手首の痣などは首を絞める前のひと悶着によるもので、右脚の傷は自分の友人を殺してしまった後「もう誰も傷つけてしまわないように」自分で刺した傷です。

 その人はあなたの質問にも、呼びかけにも答えず不意に「行くよ」と掠れた声で呟いた。
「戻らないで、このまま行こう」
 そう言って、あなたの腕を掴みに来る。
 何かリアクションはしますか?

①距離を取る、突き飛ばすなどのリアクションを取った場合
 緩慢な動作しかできないらしく、掴まれる前に突き飛ばしたり距離を取ったりするのは簡単だろう。焦点の合わない瞳、感情の籠らない声で、ひたすらにあなたに繰り返し「先へ進もう」「行かなくちゃ」と呼びかけてくる。その様子に到底正気など感じられず、ひどく薄気味が悪い。SANC(0/1)
☆実際殆ど正気はないようなものなので基本的に何の受け答えもできませんが、唯一反応するワードに関しては【EDまでの処理】の「■従者NPCについて」で後述します。

 その様子を眺めていたか、一目散に逃げようと足を動かそうとしたかはさておき。続けてあなたが歩いて来た道の方から誰かの走るような足音が聞こえてくる。
「──PC!?!」
 ひどく焦ったような驚いたような、けれども聞き覚えのある声。
 KPCが慌てた様子で、あなたの方へと走って来た。

②何もしない場合
 腕を掴まれる。見かけに反して痛い程に握りしめてくるわけではなく、手を繋ぐような緩い拘束感だ。そのまま腕を引いて、その人は沼地へ向かおうとしている。
「こっちだよ」

 腕を掴まれてから抵抗する場合はSTR対抗。従者NPCのSTRは探索者のSTRと同値のため、成功値は一律で50になります。失敗した場合は沼地まで連れて行かれ、幸運失敗とほとんど一緒の状態となるので描写を割愛させてください。 NPCは沼地まで行くと手を離します。

▽幸運(失敗)
 戻った方が良いだろう。そう理性は伝えているはずなのだが、あなたの意識はずっと沼地へ向いて反らせない。
 何かに呼ばれているような気さえするのだ。遠目から見ただけでは沼地に人など見えなかったが、あの場所にあなたを呼ぶ何かがいる。

 歩き続ければとうとう沼地まで辿り着いてしまった。
 そこにあったのは揺れ動く大輪の蓮の花だ。花が全身で呼吸をするようにゆっくりと揺れている。怪物の姿などは何処にも見当たらないが、これに呼ばれていたのだろうか?
☆以降は「■建物内の探索をせずに外に出た場合」の「……ッPC!!」と(台詞は適宜変えてくれていいです)KPCが登場するシーンを描写してください。

■建物内の探索をせずに外に出た場合
 この場合、グラーキの催眠に強めに引っかかるため以下のようにしばらくマスターシーンになります。

 さて。
 外に出ると、あなたは自然と歩を進めてしまう。建物よりもさらに奥、暗い森の中へ。
 なんとなく、その先にあるものに呼ばれている気がするのだ。そうだ。あなたはここ数日ずっと呼ばれていた。だからこうしてこの足で、この山奥まで歩いてきたのだと思い出す。なぜあんな建物に留まっていたのだろうか?

 ずんずんと歩く。
 あるいていく。
 森の中はしずかで、ただこきゅうおんだけが耳にひびいて消えていく。

 なにかによばれている。
 じぶんをよぶなにかがいる。
 あれ?でも、なにかをわすれているようなきがするんだけれど。

 ──よばれているのなら、いかなくちゃ。

 思考がずぶずぶと溶けていく。すっかり疲弊した足を引きずるようにしてあなたはその場所へ向かう。暗がりの中、夢を見たままの澄んだ瞳は足元の泥もこびりついた血も転がった白骨も何も見えていないのだから、まともに歩くことすら困難だったろうに。
 よろけながら進んだ先には沼地があった。あなたは沼に足を踏み入れる。冷たい泥水はあなたの擦り傷に染み込んで痛みを生んでいた筈だし、そうでなくともぬかるんだ地面はただでさえ鈍い足取りをさらに鈍くさせたのだろう。

 たくさん、たくさんのはながういている。
 そのまんなかにいちばんおおきなはながゆれて、ふわふわとじぶんをよんでいる。そう、おもった。

 そこであなたは何かにぎゅっと掴まれる。

「……ッPC!!」
 よく知っている声がした。KPCが息を切らして、あなたの手を握っていた。
「そこは、たぶん危ないからさ」
「……こっちにおいで、PC」
 おいで、と。
 その一言でぼんやりと意識が戻る。
 さて、どうしますか?

▼KPCに従う場合(沼地から離れようとする場合)
 未だ何かからずっと呼ばれている。それでも確かに声として発せられた「おいで」の一言にあなたは逆らえない。もしかしたら、その言葉を求めていたのかもしれない。それはどんな意図であれ″あなたを求める言葉″だから。
 そういえば、あの建物に入る時も確かそう呼ばれたのだ。あれはKPCの声ではなかったが、一体誰に呼ばれていたのだろう。

【EDまでの処理】
 シナリオ途中でSANが0になった場合やグラーキ及び従者NPCからの逃走判定、暗黒の呪いを使用した際の描写など、EDまでのシナリオの特殊処理についてです。

■シナリオ途中でSANが0になった場合
 建物外にいた場合は「■建物内の探索をせずに外に出た場合」と同じように殆どマスターシーンとして処理してください。建物内にいた場合は以下の描写ののち「■建物内の探索をせずに外に出た場合」と同じ処理をしてください。

▼描写
 ──呼ばれている。あなたは酷い焦燥感に襲われる。
 纏わりつくような淀んだ空気が煩わしい。こんな場所に居てはいけない、一刻も早く出なければ。自分の居場所はここではないのだ。
 もう疲弊は気にならない。あなたの歩みは止まらない。

 この後KPCが参加し、PCに触れた時点でKPCの持つAFが効果を発揮します。
 特に見た目等に劇的な変化が訪れるわけではないため描写は割愛しますが、処理としてはAFの効果によりKPCのSANを10減らし、PCのSANを10増やします(KPCのSAN値、探索の進行具合などによって適宜数値は調整していただいてかまいません)。このSANの移動と共に生還時の後遺症が発生します。
 あまりないかもしれませんが、逃走判定中にSANが0になった場合も上記の処理でお願いします。

■逃走判定
 沼地、グラーキのところまで来てしまっている場合はここからKPCに手を引かれ逃走判定となります。
 とはいえグラーキは沼地からPCを追いかけて移動することはないため、大まかに書くとグラーキの攻撃(棘)をかわせるかどうかと催眠に打ち勝ったまま移動できるかの判定を行うことになります。
 次に沼地以外での従者NPCからの逃走について。こちらはSTR対抗で腕さえ振りほどくことができれば自動成功とします。KPCが参加した場合は(KP裁量によりけりですが)STR対抗を自動成功としてもかまいません。

▼沼地からの逃走判定
 KPCに従って沼地を離れようとしていた場合は速やかに離れることができます。しかし、そうでない場合は(PLPCが死ぬ気満々なら不要としてもいいでしょうが)グラーキからの攻撃が届いてしまうかどうかの回避あるいは幸運判定とします。失敗した場合は基本ルールブックに則り7d3のダメージなどなどの処理を行った後戦闘ラウンド開始にしてください。
 PCを引っ張って逃げるか見捨てて逃げるか闘うか(?)、この場合のKPCの行動はKPに任せます。

▼沼地以外での逃走判定
 次に。何処へ向かうにしろ道中でグラーキの催眠に打ち勝ったまま移動できるかどうかの幸運判定を行ってください。失敗した場合のみ以下のSANCが入ります。

 生きる為であれば沼地から離れるのが正しいのだろう。理屈ではそう理解できる。しかしなぜだろう、その"沼地から離れる"という行為がひどく恐ろしく思えてしまう。あなたの足は重くもつれて上手く進まない。焦りや恐怖も確かにあるのに、だ。SANC(0/1)

■従者NPCについて
 沼地から、あるいは森の中でPCたちを追いかけてはくるのですが動きが鈍く、途中で追跡を諦めます。「おいで」と声をかけると確定で山中ではPCたちに追従するようになります。殺してしまった友人の傍から離れたくないため、街へ降りることは絶対にありません。
 暗黒の呪いを使用する際コストのPOW消費を肩代わりしてくれる存在なので優しいKPは適宜ヒントを与えてください。「ついておいで」や「こっちにおいで」などでも反応できていいです。
 「おいで」を言わず腕を引っ張って連れて行ってもいいのですが、上述の逃走判定にマイナス補正がかかるかもしれません。また、その状態の場合はPOW消費の肩代わりもできません。
 PCたちに追従する際、記憶や精神状態がどうなっているかは適宜KPのお好きな解釈で動かしていただいてかまいません。自分が死んでいるかそうでないか、その辺の自覚もあやふやかもしれないしはっきりしているかもしれない。遅れて自覚するのかもしれない。友人が渡そうとしていた腕時計は追従するようになってから(一時的に簡単な応答が可能になってから)言及されたり渡されるのであれば受け取ります。
 質問に対してシナリオ背景をめちゃくちゃ喋ったり喋らなかったりの受け答えもお好みでどうぞ。

▼「おいで」と呼ばれた際の描写例
 そう声をかけると、その人の目がじっとこちらを見た。
 譫言のように呟いていた口を一度閉じて、逡巡するような間が少しできてから。
「……わかっ、た」
「どこについて行けばいい?」
 その人は確かに、あなたに答えるだろう。

■暗黒の呪いの使用
 使用する際、POWを永久消費とするのでPCKPCが手練れの魔術師だったりAF持ちでない限りは一旦使用を躊躇ってくれるかと思いますが、そこに都合のいいゾンビ(グラーキの従者)がいるので彼のPOWをコストに使用することを(倫理観が死んでいる)シナリオ作者からはおすすめします。
 タイミング、場所に関しては丸投げしてしまっているのですが沼地から離れすぎていない場所(想定では廃病院付近など街に降りていない状態)であればどこで使用してもよいものとします。
(2024.6.2追記)
 複数人でこの呪文を使用する場合、メイン術者以外で呪文使用に参加する者が全員POWを喪失することになるのですが、PCあるいはKPCがメイン術者となってNPCがPOW提供……という形にするとPC側の負担が少ないかなと思われます。たぶん書いてる当時の作者の想定ではそういう思考になってたはず。

▼描写例
 呪文を唱え終わった。目に見える劇的な変化などはなく、成功したのかどうかも分からない。例の沼地の方を見ても蠢く何かが見えるわけではない。ただ、あなたを呼んでいる何かの気配が静かになったような気だけがする。どっと疲弊した思考を少し休める間もあったかもしれない。

「……君たちは帰ると良い。そろそろ明るくなる頃だろうから」
 彼に促され、あなたたちはその場を後にするだろう。

【ED処理】
 EDはざっくり分けて逃げ帰るかグラーキを退散させて帰るか死ぬかの3つかなと思っています。死ぬ場合は普通にロストです。
 グラーキを退散させた場合は催眠の影響もなくなるのでPCの幻覚が(ただちにかはさておき)正常な状態に完治します。退散していない場合も完治は可能ですが一定期間の後遺症(不定の狂気)として扱います。

■生還処理(SAN回復)
生還した/5のSAN回復
グラーキを暗黒の呪いで退散させた/10+1d10のSAN回復
グラーキの従者に腕時計を渡した/1d5のSAN回復

■生還処理(後遺症)
生還した/KPCと同行する3回以内のセッション参加時、終了後のSAN回復値に固定で+1d3
グラーキを退散させなかった/1d6ヶ月間の不定の狂気(内容:幻覚)
シナリオ中SANが0になり、AFを使用した/PC・KPC共に3つ以内のセッション参加時にお互いの姿がない場合セッション開始時SAN-1

【ED描写】
 エピローグに関しては談話室の死体と従者NPCのシーンですが、あくまで描写例です。だいぶシナリオ終盤のすべてをKPにぶん投げてしまう構成になっているので、適宜展開に合わせつつ使っても使わなくてもかまいません。ロスト描写も趣味で置いておきますが、このシナリオでロスト報告を聞いた日には泣くと思います。
 ちなみにそれはそれとして余談なのですが、何故シナリオにおいて屋上で幸せな夢を思い出すことにしているかというと絶望させるなら屋上にしてそこから飛び降りていただくのが一番映えるよな……と思った次第です。ほら、グラーキの催眠もたぶん屋内より屋外の方が届きやすそうですし(?)。 描写例では屋上だとKPCが間に合ってないので、駆けてくる最中に落下音だけ聞こえるのかもしれませんね。ワッハッハ。もちろん間に合っても大丈夫です。

■帰宅まで
 空は目を覚ました時より随分と白んでおり、朝日の眩しい頃合いかもしれない。あの建物の中で自分がどれほど眠っていたのか、そもそも眠っていたのかどうかすらあなたにはわからないが、今はとてつもなく眠たかった。

「……眠たそうだね、そういう顔だ」
 KPCは苦笑して、何かを少し悩んだ後。
「君がいなくなる夢を、最近よく見てたんだ。こういうの、本人に言うものじゃないかもしれないけど」
「原因はいろいろでね、何かを探しに行ったり、ただ不運な事故に遭ったり。最近ずっと元気なかったでしょ?心配だったのかもね」
 静かに言葉を紡ぐその表情は逆光が隠してしまった。ただ、声音はいたく優しいように思えたかもしれないし、悲しげにも思えたかもしれない。

 途中で、彼は振り返る。あなたを見る。

「ねぇPC。これはもしもの話だけど」
「もし君がいつか、今じゃなくても"どこか遠くに行きたい"、"一人になりたい"と思った時、そう思うことは否定しないから……」
「──教えてね。急にいなくなっちゃったら寂しいでしょ?」

 その言葉があなたの胸に確かに届いたか、届かなかったかはあなた次第だが。
 どちらにせよ、彼はあなたにそう言って微笑んだのだろう。

■エピローグ
「やっぱり、光は苦手なんだ」
 彼はぽつりと呟く。

 強い光に目が霞み、上手く歩けないけれど。
 それでもどうにか、横たわるその人の傍へ歩いていく。
「君は平気だろうけど、こっちは目が痛くてしょうがないんだよ。でも」
「……君がいるから、しょうがない。どれだけ痛くても隣にいるよ」
 光りで痛む目も、もう言葉を紡ぐことすら難しい唇も閉じる。
 夢はもう見なくていいか。だって、朝が来たんだから。

 暖かな陽の光が差し込む。
 その部屋には横たわる二人がいた。
 もう動かぬ二人が、寄り添っていた。

■グラーキの棘で従者になった場合

 信じられないような痛みが一瞬で全身を駆け巡った。視界が明滅する。何かが体内に流れ込む。熱い。寒い。痛い。全身が溶けてしまいそうな刹那の脱力感。嗚呼、それから──

 おいで。
 おいで。
 おいで。
 おいで。おいで。おいで。おいで。
 おいで。おいで。おいで。おいで。
 さあ。もう大丈夫。

 あなたはその声に逆らえない。暗くて優しくてあたたかな夢はもうあなたを離さない。
 ″夢″はするりとあなたの頬をなぞり唇を愛撫して、あなたは歓喜に震え口や腹から花を溢すのだろう。
 優しい静寂に脈はいらない。夢を覚ますような鳥の囀りも聞かなくていい。

 ようこそ、PC。此処はあなたの居場所。

 永遠に続く、幸せな夢の中だ。

■廃病院の屋上から飛び降りる場合
 さあ、一歩。一歩。その調子。
 夜風が頬を撫でる。月があなたを導くように淡く輝いている。そう、子どもはとっくに寝る時間だ。
 足を踏み出せば身体がふわりと浮いた。あなたは眠りに落ちる前に少しぐずるのだろうか?それとも穏やかに目を閉じたのだろうか。まあ、疲れている時はよく休むに限るだろうから。

 おやすみなさい、PC。どうか良い夢を。
 永遠に覚めない、幸せな夢を。

【引用元】
著:サンディ・ピーターセン、リン・ウィリス
訳:中山てい子、坂本雅之
『クトゥルフ神話TRPG』(2004)(第24刷)株式会社KADOKAWA
p214:「グラーキ」
p250:「暗黒の呪い」

著:スコット・アニオロスキーほか
訳:坂本雅之、立花圭一
『クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム』(2008)(第13刷)株式会社KADOKAWA
p42:「グラーキの従者」


■あとがきと解説

【あとがき】
 ご無沙汰しております或鷺池弦です。今回はただただEDでよその子と会話する舞台を作りたいだけの筈だったのに、一体全体どうしてこんなシナリオに……と思いながら書いていました。ED以外の全てが舞台装置くらいの感覚で描写を埋めて行ったのですが舞台装置にしては重いですね。おかしいな……。
 「今見えている景色を信じられない」「花と死体」「発狂による記憶喪失」等々のトラウマがある子で来ると大変なことになるんだろうなと思っています。

 現実であり得ないような幸せな夢を見た朝の気分って如何ですか?と問うと、色んな答えが挙がるのかもしれません。池弦は「ずっとあそこにいられたらどれだけ幸せだっただろうか」と喪失感に駆られるか、「ふぅんお前はこんなことを望んでいるんだなぁ」と自己嫌悪に陥ることが多かったので、孤独感とそういう気分の悪さを味わいつつそれらから目を逸らすためのシナリオを目指していたんですけどどうでしょうね!
 生きるにあたって不幸の総量に目を向けるか幸せの総量に目を向けるかは人それぞれで、どちらの選択も有り得るけれど。でもまあ、見える範囲の幸せからは目を逸らさずに生きたいなぁという思想で今のところのびのび生きています。こんな一個人の恥晒し日記みたいな(?)あとがきを読んでくれているみなさまもほどほどに、よきTRPGライフをお過ごしくださいね。あとできる限り探索者も幸せにしてあげてください(?)。

【ちょっとした解説】
 性癖ポイント解説です。といっても今回シナリオ中ちょこちょこ解説を入れている気がするので控えめにいきますね。

・タイトルとタイトルコールについて
 夢喰いサナトリウム。嫌な夢を喰らってくれる療養所のつもりでシナリオを書いたので、舞台も病院にしています。
 タイトルコールは一応幽霊NPC目線から従者NPCに向けたようなそれでいてPCにも向いているような文にしていますが省いたり変えていただいてもかまいません。将来的にこれを読んだ作者が羞恥で爆発四散する可能性はあります。

・NPCについて
 階段で見つかる荷物というか食料に関しては生前の幽霊NPC(ややこしいな)が従者NPCがもし飲まず食わずだったら大変だ……!!と飲料水とバランスフードを持ってきていた設定でした。
 エピローグに関しては何がどうなっているかというと、マレモンを流し見た記憶ではグラーキの従者ってある程度従者化が進むと日光に当たった際にぼろぼろに崩れてしまうらしい……?んですよね。なので基本日光自体に弱い解釈をしていて、従者NPCの場合は日光を浴びすぎるとグラーキの棘の効果もなくなってただの死体となるイメージで書きました。
 シナリオとはおそらく似ても似つかないのですが、エピローグを書いているとき脳内でめちゃくちゃ好きな曲が流れていました。気になる方は「WORLD'S END UMBRELLA」で検索してみてください。

・グラーキ
 実は人生におけるPCの初ロストをこいつに奪われたのでわりと好きな神話生物です。身内に回した人生初製作のシナリオもこいつを出したのですが今思い出せる範囲で比べてみるとこう……成長したな……と思いますね。
 従者にされる描写、めちゃくちゃエッチに書けたと思うんですけどどうでしょうか(?)。腹を刺してきたその棘で頬と唇を撫でられ、血を吐いて垂れ流しているのが全部花に見えている状態の描写でした。

・児童書と絵本
 今回は創作から引っ張って来たとかではなく完全にシナリオ書きおろし(?)の内容でした。児童書に関してはPCの状態の示唆で、絵本に関してはグラーキの示唆です。